トップ > 健康・医療・福祉 > 障害者支援・地域福祉・生活支援 > 支え合い活動の今に迫るWEBコラムシリーズ > WEBコラム【第12話】介護の現場を守る地域の力
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更新日:2024年03月25日 15時34分
新型コロナ発生以来、さまざまな業界が苦境に立たされています。福祉業界も同様で、高齢者を対象とする介護の現場では大きなリスクと課題を抱えながら、懸命にサービスを提供しています。介護現場の状況と課題、介護事業所が地域と共に歩むことの大切さなどを、久留米市介護福祉サービス事業者協議会の吉永美佐子さんと三苫洋介さんに聞きました。
「介護の質をより高めていくためのネットワークです」。同協議会は、加盟する介護事業所の学び合いや、情報共有・発信などで、高齢者や障害のある人が安心して過ごせる環境を目指しています。2020年6月には、久留米市や障害者基幹相談支援センターと共催で、新型コロナウイルスの感染予防講習会を開催。危機感を募らせる介護・障害者施設から、243人が参加しました。
同協議会は、感染防止の医療物資の確保の手伝いもします。消毒液が不足する中、酒蔵が作った消毒用アルコールを調達したり、メーカー協力の下、ポリ袋を使った簡易防護服の作り方マニュアルを配布したりしました。第3波の到来を機に、事業所アンケート調査も実施。現場の声を集めながら、介護現場を支援しています。
シティプラザで開かれたコロナ対策研修は、座席を空けて密を回避。基本的な予防策から防護服の脱ぎ方の実演まで具体的な対策を学びました
120リットルポリ袋を用いた簡易防護服づくりの手順書。ポリ袋と合わせて約140事業所に届けました
吉永さんは、介護現場の課題を話します。「とにかく人が足りません。その危うさがコロナでも、自然災害でも明らかになりました。感染リスクを上げないために、職員はプライベートでもいろんな我慢をしています。誰か一人でも発熱すれば、連続夜勤が発生するほど、ぎりぎりの状態なんです」。過去の台風時には、介護が必要な高齢者が避難所に入れず、介護事業所に駆け込んだものの、施設のキャパシティーや人手不足で、自宅に帰らざるを得ないケースもあったと言います。「介護現場の課題を解決するカギは、地域との関係の中にあると思っています」。
同協議会の事務局長を務める吉永さん。「介護サービスは現場の頑張りでなんとか成り立っています」と危機感を示しました
2020年2月上旬に行ったアンケートでも人員確保の現状を尋ねています
「地域に開かれた事業所」になることが介護の課題解決には欠かせないと話す三苫さん。民生委員・児童委員や自治会などと同じように、介護事業所が地域の資源として住民に認識されることが大切だと考えています。「地域の人と顔が見える関係になることで、介護が必要な人が早く的確に把握できる。高齢者は安心できるし、事業所は利用者の確保につながる。でも、最も大きなメリットは、人材不足を解消する可能性が生まれることです」。
現在の介護の現場は限られたマンパワーで支えられています
今後、高齢化がさらに加速する中、介護現場の人材確保は欠かせません。「地域と連携できれば“人材のストック”を作ることができる」と吉永さんは期待します。介護事業所が地域としっかりつながれば、介護職OBが見つかるかもしれません。もっと言えば、介護の現場では、資格を持たない人も人材になり得るのです。「トイレまでの介助や、話し相手。担える役割があるんです。施設でクラスターが起こった時や災害時など、急に人手が足りないときに大きな力になる。定年退職して時間がある元気な人は貴重な人材です。その人の介護予防にもつながりますから」。
インタビューに答える三苫さん。「防災も感染症対策も地域と一緒に」と考えています
「離職した人や外国人など、あらゆる人材を介護現場に巻き込んでいくことで、人材不足が補える。それが今の人材の定着や力を十分に生かすことにつながります」と三苫さん。生活保護を受給している人を、介護事業所で受け入れる就労支援事業は6年目。介護福祉士の国家資格を取る人も出てきています。
若い人にも介護職に興味を持ってもらうため、出前講座も行っています。そこで吉永さんを驚かせた出来事がありました。高校生に「『看取りの経験がある人は?』と聞くと、クラスに1人くらいしか居ないんです。これほど“死”の存在が遠くなっているのかと思いました。だからこそ、こうした取り組みが必要なんですね」。ピンチをチャンスに変え、現場の人材を守り、住民の生活基盤を守る。その力は身近な場所にありました。
高校で行った出前講座の一コマ。介護の状況を再現しリアルな体験の機会をつくりました
興味を持ってもらう取り組みの一つとして行った介護現場の写真展
(第12話終わり)
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WEBコラム「みんなで生きる、みんなが活きる」