トップ > 健康・医療・福祉 > 障害者支援・地域福祉・生活支援 > 支え合い活動の今に迫るWEBコラムシリーズ > WEBコラム【第11話】関わることで変わる意識
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更新日:2024年03月25日 15時40分
「分別が分からんなら俺が教えよう」「もっと声掛けしていかんといかんね」。
2020年12月、ある男性の自宅にあふれたごみを、市内の社会福祉法人と支援機関、地域住民が力を合わせて片付けました。ここから生まれたのは、本人を囲む人の意識の変化でした。
長谷川昌義さん(40代・仮名)は、元々母親と兄との3人暮らしでした。長谷川さんが事故で入院している間に母親が他界し、障害のある兄はグループホームに入所しました。退院した長谷川さんは一人暮らしを始めます。平成30年のことでした。
現在、長谷川さんを支える東部障害者基幹相談支援センターの竹下知宏さんは、支援のきっかけを思い出します。「長谷川さんが定職に就けずにずっと家に居るようだ、という民生委員からの相談が、お兄さんと接点があった当センターに寄せられました」。長谷川さんには障害があるものの、その認識がなく、障害者手帳を取っていませんでした。竹下さんは、就労支援事業所につなぎ、障害者の就労支援事業所を紹介してもらいました。以来、長谷川さんの生活全般の支援を行っています。
東部障害者基幹相談支援センター長を務める竹下さん。これまでを振り返りながら話してくれました
長谷川さんが一人暮らしになってから、家の中が散らかり始めました。竹下さんが時々一緒に片づけても、すぐに元に戻ってしまいます。そうして徐々に自分で片づけられる状態ではなくなっていきました。
障害福祉サービスをきちんと受けられるよう、長谷川さんは障害者手帳を取得し、ヘルパーに来てもらうように調整しました。しかし、部屋は散らかったまま。いよいよ何とかしないといけなくなり、竹下さんが思いついたのが、地域の社会福祉法人が専門性や資源を生かして様々な支援を行う「ふくおかライフレスキュー事業」でした。
洋服や日用品が散乱した居間。分別も苦手で、いろんなものが混在していました
台所は調味料や空のペットボトル、食器などで埋め尽くされていました
この事業は、既存の制度で解決できず困っている人を支える取り組み。竹下さんは、社会福祉法人「ゆうかり学園」の吉田修平さんに話を持ち掛けました。吉田さんは「当法人が中心となって対応するのは初めてでした。なので、経験がある市社会福祉協議会に相談したら、進め方や地域とのつなぎなどを手伝うと言ってくれて。頑張ってみようと思えました」と話します。今回は、打ち合わせや人の確保、作業着やマスク、ごみを運ぶための車を法人と市社協で用意しました。
「一つ一つが手探りでした」と話す吉田さん。地域との協働でいろんな経験ができたそうです
新型コロナウイルスの流行下で行われた片づけは、極力人数を絞って11人での作業となりました。参加したのは、竹下さんと吉田さん、市社協の職員、そして校区社協の会長と自治会長、民生委員3人です。約半数が地域住民でした。「地域の皆さんがこんなに集まったことに驚いたし、下の名前で呼び合うほど関係が近かった。こんなに身近に見守ってくれる人がいるんだと安心しましたね」と吉田さんは話します。
事前の打ち合わせから当日作業まで、地域の皆さんが積極的に関わって片付け作業は進みました
片付けを通して地域の皆さんが現状を認識できたことで、“見守り意識の変化”が現れたと竹下さんは言います。「長谷川さんが障害者手帳を取っても、それをみんなに伝えられるわけではありません。長谷川さんに障害があるという認識はあまりなかった地域の皆さんが部屋の状態を見て、『分別が分からんなら俺が教えよう』『もっと声を掛けんといかんね』という声が出たんです」。
搬出作業は吉田さんと竹下さん、社協職員と長谷川さん。支援機関同士の連携も深まりました
社会福祉法人や支援機関も得るものがありました。竹下さんは、地域とできた関係が貴重だと感じています。「どの支援機関や制度にも該当しないけど困っているという人が必ずいるんです。地域の皆さんはそういう人の情報をよく知っています。そういう話が私たちに届くようになれば」と期待します。
吉田さんも多くの刺激を受けたそうです。「組織の人間や専門職は制度の中で考えがち。でも、地域にある社会資源をよく知る住民の皆さんは、インフォーマルな(=公式な制度ではない)支援のアイディアなどを持っている。一緒に関われれば、支援の幅が広がるんじゃないかな」。
居間もきれいに片付き、くつろげるスペースができました
台所周りの不要な物を処分。ダイニングテーブルも使えるようになりました
長谷川さんを中心に支援機関が連携し、地域の住民とも手を取り合って好循環へ。“制度”と“インフォーマルな支援”が両輪となることで安心を生み出しました。
地域の皆さんの真剣な気持ちは、長谷川さんに届いているはずです。だからこそ、長谷川さんは地域の行事や役割を大切にしています。それは、これからも、この家で、この地域で暮らしていきたいと思っているから。
(第11話終わり)
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WEBコラム「みんなで生きる、みんなが活きる」