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【グッチョVol.29】30年ぶりの外食/どこそこ一枚・私が今困っていること
更新日:2024年02月19日
15時27分
【あそこであげなこつ】きっかけとタイミング
テキスト版
【リード】
私は市社会福祉協議会で働いています。さまざまな生きづらさを抱える人と出会います。その中に、30年近く仕事に就けず、ほとんどの時間を自宅で過ごしていた男性がいました。彼は今、就職して忙しい日々を送っています。男性に起こった変化とそのきっかけは。
【本文】
令和6年1月、仕事が終わったばかりの西川光一さん(仮名)を誘い、「ぷらっと.荘島」に食事に行きました。カフェのあるコミュニティスペースで、私たちにとって思い出の場所。久しぶりの再会で、近況報告で盛り上がりつつ、自宅で過ごした30年のことを振り返ってもらいました。
【心の波に揺られて年月が経過】
西川さんは49歳。70代の母、兄と弟の4人家族です。高校卒業後、友人に誘われ海運の仕事に就きました。18歳で親元を離れて過酷な肉体労働の現場へ。1年ほどで体調を崩して船を降り、療養のために実家に戻ります。「体調が良くなったら、職場に戻ろうと思っていました。でも、回復してもなかなか足が向かなかった」と西川さんは当時を思い出します。20歳の頃にカラオケ店でアルバイトをするも、数カ月で退職。それからは、1日のほとんどを自宅で過ごすようになりました。
過ごす部屋は仏間です。ここで寝起きし、テレビを見たり漫画を読んだり。たまに散歩をすることもありましたが、何もせず「ただボーっとしていることが多かった」そう。「その時は家族のことを漠然と考えていた。行動を起こすきっかけが欲しいと思う時もあれば、誰とも話したくないという時もあった」。過ぎ行く日々や将来の不安から押し寄せる「心の波」に揺られながら、ただ年月が流れたと話します。
【外出は、ひょんなことから】
西川さんと出会ったのは、令和4年の春。新型コロナの影響で家計を支えていた兄の収入が減少し、一家の経済状態は厳しさを増していました。兄が生活自立支援センターに相談し、社協にも協力依頼がありました。食糧を届けるために家を訪ね、初めて西川さんのことを知ったのです。それから週1回は訪問や電話で、好きなアニメや釣りのことなど、世間話をするようになりました。
西川さんとは馬が合うのか、時間を忘れて話すこともしばしば。気心も知れてきたある日、話していたら昼になったので「外に飯食いに行きましょうよ」と言ってみました。すると「うん」とうなずいたのです。
こうして約30年ぶりの外食は、突然実現しました。行先は以前、西川さんに「日本一うまい(個人の感想)ホットサンドがある」と紹介していた、ぷらっとに決定。普段口数が少ない西川さんにも適度に声をかけてくれて、居心地が良かったのか、時々に遊びに行くようになりました。
【人との関わりで生まれた自信】
ランチをきっかけに、西川さんは一歩を踏み出しました。夏には、農業ボランティアに参加し、さらに出会いや繋がりが広がりました。そんなある日、農業体験の帰りに「家計の助けになりたい。余裕が出来たら自分の小遣いが欲しい」とポツリと話してくれたのです。
私は「絶対やれる」と確信していました。西川さんなりに工夫して効率的に作業するところや、他のボランティアともコミュニケーションできる姿を見ていたからです。そこで、さまざまな人の就労を支援するNPO「わたしと僕の夢」に、サポートしてもらいました。担当の久保さんは、西川さんの希望を聞きながら、合いそうな職場を探すだけでなく、職場体験に早朝から同行するなど、本当に親身になってくれました。
その年の10月、西川さんは正社員として、警備会社に就職が決まりました。約30年ぶりのフルタイム、さらに屋外での仕事。「夏には熱中症や脱水症状を起こしかけたし、時には仕事のやり方を厳しく指導をされることもあります。それでも仕事は楽しいです」。今も前向きに働き続けています。
【身近な所に「居続ける存在」】
孤独・孤立や引きこもり。関わる上で大切なことは「タイミングときっかけ」だと感じています。西川さんが口にした「心の波」はきっと誰にもあります。無理に引っ張り出しても逆効果。「何とかしたい」と本人がきっかけを求める時が来ます。人によってはSNSなどバーチャルな発信かもしれません。その時、手が届くところに誰かがいることが大事だと思います。
私は、「社協の職員」から「友達」のような感覚になっていました。西川さんが心理的な身近さを感じてくれていたなら、それは、結果として良かったのかもしれません。
そして、ふと訪れるタイミングで公的機関や支援団体などの「つて」に繋がれば、希望はきっとかなうと思います。地域の中の「見えにくい」課題に向き合うヒントになれば。
(担当・寺﨑)
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