トップ > 計画・政策 > 人権・同和問題・男女平等 > 人権啓発 > 共に生きる(広報紙) > 人権特集【38】社会問題としてスクラムを組む
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更新日:2024年08月27日 15時20分
7月は同和問題啓発強調月間です。長年、同和問題を中心に差別問題や人権課題について研究している近畿大学名誉教授の奥田均さんに、同和問題の現在と人権のまちづくりについて聞きました。
大正11(1922)年に差別される人々が中心となって「全国水平社」(補足1)が創立されるなど、部落差別をなくす運動は、100年以上、取り組まれてきました。現在では、当事者だけでなく、行政や教育現場、地域や企業など社会全体で取り組んでいます。その成果で、同和問題は少しずつ改善していると思います。しかし、差別は無くなっていません。平成28年に施行された「部落差別解消推進法」第1条には「現在もなお部落差別が存在する」とはっきり書かれています。
(補足1)「全国水平社」とは
大正11(1922)年に結成され、被差別部落の解放を当事者が目指した組織。創立大会には全国から大勢の人が集まった。大会では、被差別部落出身者をはじめ、すべての人間の解放を目指すことを明らかにした。大会で採択された宣言は「人の世に熱あれ、人間に光あれ」で結ばれ、日本で最初の人権宣言といわれている。
部落差別と社会のありようは密接に関わっています。郵便事業が発達すれば差別文書が送りつけられ、電話が普及すれば嫌がらせ電話が横行するなど、時代によって新たな差別手段が生まれました。
現在はインターネットによる差別も社会問題になっています。インターネットの普及で情報の広がり方が大きく変わりました。これまでは、差別ビラがまかれたり、塀などに誹謗中傷する落書きをされたりするなどしてきました。インターネットは書き込みや動画が世界中に拡散されます。リポストなどの再投稿もあり、その拡散力は桁違いの大きさです。匿名性が高く発信者が分かりにくいうえに視聴数が収益につながるため、より過激な書き込みや動画が掲載されるなど、インターネット時代ならではの特徴もあります。
現代は、インターネットに全く触れずに生活することは非常に困難です。そこで大切なのは、その情報が正しいのか、間違っているんじゃないかという疑問を持てるかどうか。それがないと、知らず知らずに誤った情報の影響を受けて、差別をしてしまう可能性があります。間違った情報をはね返し、自分の中に取り込まないために必要なのが「正しい認識」なのです。正しい認識を身につけなければ、差別は減りません。
残念ながら、インターネット上の差別的な悪意のある情報を根絶するのは難しいと思います。しかし、正しい認識を持つ人が増えれば、差別的な情報や誤った情報を検索したり、見たりする人が減り、差別情報そのものが孤立し、ネットで得られる収入も減る。結果として差別情報が減っていく。罰則などの規制を整備するだけでなく、そういった流れを作っていくことも大切です。
実は、同和問題は社会全体が抱えている問題なのです。例えば、失業率が高いとか、進学率が低いとかさまざまなデータで同和地区とそうでない地区の比較がされてきました。しかし、失業している人や経済的な理由などで進学できない人は同和地区以外にもいます。社会全体に同じ問題があるのです。同和地区の場合は、それが歴史的な差別や偏見により色濃く現れてきたのです。
同和問題を解決することは、社会全体の問題を解決することにつながります。例えば、まちにスロープやエレベーターを設置するのは以前は、障害者対策として行われてきましたが、今ではユニバーサルデザインという障害のあるなしに関わらず、全ての人が住みやすいまちづくりとして取り組まれるようになりました。同じように、同和問題も当事者だけの問題だとやりすごすのではなく、社会全体の問題として認識する。市民がスクラムを組んで解決に向けて動きだすことが、あらゆる差別がない「人権のまちづくり」に向けた第一歩ではないでしょうか。