トップ > 計画・政策 > 人権・同和問題・男女平等 > 人権啓発 > 共に生きる(広報紙) > シリーズ【19】頑張ってねより頑張ったね
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更新日:2022年12月01日 10時26分
令和3年度、久留米市の児童虐待相談件数は396件で過去最多でした。ほかにも、ネットいじめやヤングケアラーなど、子どもを取り巻く問題が社会で深刻化しています。人権尊重週間(12月4日から12月10日まで)に当たり、大人と同様に、子どもも一個人として尊重されるべきとする「子どもの人権」について、子ども家庭支援センターあまぎやま・センター長の坂口明夫さんに聞きました。坂口さんは、さまざまな事情で親元を離れて暮らす子どもたちを支援しています。
実親を知らない、家庭を知らない、誕生日を知らない、虐待を受けてきた、そして7つの家庭で育ったのが私です。「いい子を演じよう」、「捨てられないようにしよう」と過ごしてきた経験が、私の場合は適応力や観察眼を育てたと思います。この力や経験が、今の仕事に生きている部分は大きいです。
例えば、私は子どもを施設に迎える初日は、大好物の食事を用意するよう職員にお願いしています。入所前の施設見学などで、こっそりと好きなものを聞き出しておくんです。何げない話を覚えてくれていたんだ、と大事にされる安心感を感じることができると思います。私もそれぞれの家庭の初日の食事は、今でも全てはっきりと覚えています。
よく「頑張ってね」という言葉を耳にします。その言葉を掛ける前にまず、「頑張ったね」と声を掛けてほしい。今までの頑張りを認めることは、子どもにとって大きな糧になります。10回の「頑張ってね」よりも1回の「頑張ったね」のほうが効果的なんです。
大人の声掛けには具体性がないことが多いです。特に怒っているときは指示語だらけ。それでは子どもに伝わりません。どうして注意しているのか、具体的な理由をはっきりと伝え、子ども自身が考えられるような声掛けをすることが大切です。
日本では家族神話がいまだに強く根付いているように感じます。私も大多数の親子は一緒に過ごしたほうが幸せだろうと思います。でも、一定期間離れてみてお互いのことを分かり合える時間が必要な親子がいるのも事実です。私は施設を家庭に代わって、子どもたちが生きる力を養う場所だと考えています。
1994年、日本は「子どもの権利条約」に批准しました。しかし、今でも人権が守られず、支援が行き届いていない子どもたちが大勢います。そういった子どもたちを救うには、周りにいる大人の意識を変えていく必要があると感じています。普段の様子と違ったり、身だしなみが整っていなかったりと、少しの違和感に気付くことが子どもを救う一歩につながる場合もあります。
家族だけではなく、近所の人との関係性も子どもにとって大切です。以前と比べて、そこが薄れてきている今だからこそ、支援から始まる縁は、子どもたちにとって貴重なものです。まさに支援は「始縁」です。家族以外の信頼できる大人の存在も、子どもが自分らしく成長するために、必要不可欠なものだと信じています。
支援を必要としている子どもへの理解を深め、常日頃からアンテナを張ること。これが子どもたちの人権を守るために、私たちにできる小さな一歩につながるのではないでしょうか。
久留米市校区人権協連合会の研修会で講師として話をする坂口さん