トップ > 計画・政策 > 人権・同和問題・男女平等 > 人権啓発 > 共に生きる(広報紙) > シリーズ【14】話すことで自分の中の偏見に気付く
0140
更新日:2022年08月31日 09時02分
さまざまな差別について「知らないこと」が「無いこと」になってしまう場合があります。「部落差別解消のためには、視点を変えて歴史を学ぶことが重要」と人権について学ぶことの大切さを伝えている堀田秀茂さんに話を聞きました。
私は中学校の社会科教諭でした。同和教育推進教員になったとき、自分自身が真に納得していないと子どもたちには語れないと思い、被差別部落の人たちと話をしたり、歴史を学び直したりしました。そこで分かったのは、表に出ていない被差別部落の暮らしや差別解消のための闘いでした。知っているつもりで実は知らなかった自分が恥ずかしかったですね。
語り継がれている歴史は、広く知られている歴史と大きく違うことがあります。文字で伝わっていない事実もありました。例えば、学校で、江戸時代に翻訳された「解体新書」を学習しますが、腑分け(解剖のこと)をした古老、虎松の祖父が被差別部落の人であったことや、同時代に被差別部落の人たちが、医学や薬学の技術、知識を持っていたという事実はあまり知られていません。違う視点から歴史を調べ、次世代に伝えていくこと、それが私の活動の原点です。
全国水平社創立から今年で100年になります。創立大会で採択された宣言は、部落差別に苦しめられた人たちが発した心の底からの叫びです。当事者だけではなく、国民全体へのメッセージだと思います。宣言から、被差別部落の人たち自身による差別解消に向けた運動が始まりました。しかし、まだ差別は無くなっていないんです。平成28年「部落差別解消推進法」が施行され、国が、改めて今も部落差別はあると認めました。現在も部落差別によって苦しめられている人がいる現実をどこか人ごとと考えている人が多いのではないでしょうか。人ごとという意識が差別を生んでいると思います。
(補足)全国水平社…大正11(1922)年に結成された被差別部落の解放を目指した最初の自主的な組織。創立大会には全国から大勢の人が集まった。大会では、被差別部落出身者だけでなく、すべての人間の解放を目指すことを明らかにした。大会で採択された宣言は「人の世に熱あれ、人間に光あれ」で結ばれ、日本で最初の人権宣言といわれている。
あるとき、被差別部落の人から「仕事から帰って来て、家の近くの橋を渡ると、ほっとして肩の力が抜けるんです」という話を聞きました。日常の中でも、当事者にとっては、まだ緊張を強いられる厳しい社会なんだと衝撃を受けました。
私たちは、共通の話題を探そうとして、つい出身地を聞くことがあります。被差別部落の人たちにとって、その質問は不安でしかありません。当事者は「出身地で差別されるのではないか」と常に身構え、闘っています。普段の何気ない会話の中でも、不安な思いを抱えている人がいることを、皆さんに分かってほしいです。
差別を無くすためには、私たち一人一人の内面から偏見を無くすことが大切です。学校で学ぶなどして、差別はいけないことだとみんなが分かっています。しかし、それだけでは、真の差別解消にはならないんです。偏見があると、周りの意見に流されて差別を助長してしまう可能性もあります。解消するためには同情ではなく、自分の中の偏見に気付くことが必要です。そのためにも学び続けることが大事。差別が生み出された背景や当事者が歩んできた歴史を知ると、思い込みや偏見が覆ります。
部落問題について話すことも必要です。私たちは、どこかで部落問題について話すことを難しいとか、間違ったことを言ってはいけないなどと思って避けてはいないでしょうか。話すことで自分の誤りに気付くし、他人の考えも知ることができます。差別を無くすために、部落問題を互いに学びみんなで当たり前のように話せるようになったら、誰にとっても安心して生きやすい社会に近づくと思います。
「学習をするときに、自分が疑問に思ったことを躊躇せずに尋ねることが大切」と講演会で話す堀田さん。