トップ > 健康・医療・福祉 > 障害者支援・地域福祉・生活支援 > 久留米の地域福祉マガジン「グッチョ」 > 貧困からの脱出にこそ「心のデザイン」
更新日:2021年12月28日 10時00分
【血縁なき大家族が暮らし合う】
「めちゃくちゃ深刻な場面に出くわしますよ。『今から手首を切る!』って電話があって駆け付けたこともあるし、『子どもが暴れて手が付けられない』というので急いで家に行き、ドアを開けたら血まみれの母親と鉢合わせたこともあります。暮らしの裏側に踏み込んでいるから、たった一食のご飯で、助かっている命がたくさんあることを実感できました」。
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ここは「じじっか」。「実家より実家」という意味を込めた名前で、ひとり親家庭の市民団体から発足した「一般社団法人umau.(ウマウ)」が運営しています。冒頭の話をした理事の中村路子さんによると、目標は二つ。貧困の根本原因を追究・解消する「100人の貧困世帯の脱出」と、地域子育てを実現する「ひとり親ふたり親ではなく7人親へ」です。主な活動は親子食堂や居場所づくり。新型コロナの流行拡大を受けて食事の配達も始めました。さまざまな理由で生活が苦しい家庭など約160世帯が、じじっかを通じて支え合いながら暮らしています。
血縁の無い大家族「じじっか族」になるには、家族としての婚姻届け「ファミ婚届け」を提出します。じじっか族は全員が何らかの役割を担います。遊びに来て、子どもたちの遊び相手や世話をするのも役割。月1回配達や片付けなどを手伝う人もいれば、運営スポンサーとして寄付金を出す人など、それぞれに運営を支えます。そして、あいさつには独自のルールが。来た時には「おかえり」と迎え、自宅に帰る時は「いってらっしゃい」と送り出します。
【苦しさ、痛みが分かるから】
運営の中心となる21人のメンバーには、昼も夜も関係なく電話が入り、いろんな対応を迫られます。中村さんは次のように話します。「じじっか族の一人から、今晩子どもに食べさせるものが何も無いと連絡があって、すぐに届けました。その時はお金が無くて本当に苦しいんだろうけど、数日前には高級パンを食べたり友達と遊びに行ってたり。貧困の背景にはもちろん手放しで同情できないこともあります。でも、誰だっておいしい物は食べたい。『生活に困っているのに』と否定してしまうと、その人は関係を閉ざしてしまうだけ。そこに向き合うしかない」。
中村さんはこう続けます。「貧困の根本には孤立があります。周りから見ても何が原因なのか、何が事実なのか分からないくらい悪循環に陥っている。解決策なんか簡単に見つかりません。そこから抜け出すには『暮らしを細かく分けて、一つ一つを誰かと認識を共にする』ことからかな。だから一緒に生きていく存在が必要です」。
【暮らしを細分化してシェア】
この考え方は、暮らしにゆとりを生み出すプログラム「シェアメニュー」に生かされています。食事の用意や習い事の送り迎えなど、家ごとに行っている作業ををじじっか族同士で一緒に済ませたり、使わなくなった洋服や食材をシェアしたりして、出費や手間を減らします。さらに、自分の「得意」を生かして服や装飾品の制作・販売や講座の開講、ちょっとした事務作業の請け負いなどで「月に数万円」の追加収入を得ることもあります。「暮らしの中に数多くある『作業』を細かく分けてシェアすることで、暮らしが好転するきっかけになるはず」と中村さんは戦略を話します。
【随所に光る「心のデザイン」】
貧困という現実に向き合い、悪循環を断ち切るのは当事者である私たちだと運営メンバーは捉えています。「ネガティブに捉えられがちなことだからこそ前向きに捉えたい。だから『貧困脱出』ではなく「ラッキーループを巻き起こせ!」が合言葉なんです」と中村さん。じじっかにはそんな『心のデザイン』が随所に見られます。
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令和2年11月下旬、じじっかに併設されている倉庫を改装して、屋内広場「じじっかパーク」をオープンしました。約380平方メートルで子どもが走り回るには十分な広さ。一面の壁が鏡張りになっています。パークを使って毎週金・土・日曜のお昼に、いろんなタイプの居場所をつくっています。金曜は思う存分自由に過ごす「ゆったり居場所」、土曜は四つの習い事を体験できる「みんなの習い事」、日曜は地域住民の皆さんと一緒に過ごす「まちの休日」。人とのつながりや学び・体験の機会から「希望」や「可能性」を生み出す場です。
そして、じじっかパークの一角にはお店のような部屋「ギフトルーム」があります。正面から右にかけて壁には洋服ラックがあって、左側には食品や日用品の陳列。寄付として集まった洋服や食材が並びます。とても貴重な応援でありがたい。
必要な物をもらえればお金は節約できる。時には買う余裕がないかもしれない。だからといって、段ボールの中に雑然と入れられた状態から持ち帰るのと、きれいに陳列されて「店で買い物」するように選ぶのでは全く違います。「ありがたい」に「喜び」が加わると思うのです。底抜けに明るい運営メンバーが大切にしている「みんなの心をデザインする」ということが、このギフトルームに表れています。
(担当・フトシ)