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あいさつは平和の源。道路で敬礼13年

更新日:202309011640


【あん人おもしろか】下本杉一さん

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「他にするこつ、なかもん」
早朝5時半から8時45分まで、夕方15時半から18時までの約6時間。山本町の県道沿いに住む“敬礼おじさん”こと下本杉一さんは、この13年間、家の前を通る人や車に敬礼しています。
なぜそんなに続けられるのかを聞くと、杉一さん(敬意と親しみを込めて、あえてこう呼びます)は「他にするこつ、なかもん」と、身もふたもない。
少し間を置いて、杉一さんはこう続けました。「おいちゃんはね、毎日2000人と会いよると。あいさつして心ば交わしよるもん」。

杉一さんは元寿司屋。市中心部で16年、山本町で20年、多くの人に愛されたそうです。杉一さんがあいさつを始めたのはなぜか尋ねました。
「商売しよる間、地域の役ば先送りにしてもらっとったもん。73歳で店を畳んだけん、区長ば引き受けたたい。通学の見守りばしよったら、子どもたちの声は元気ばくれるもん。やけんおいちゃんも、『学問ばせやんぞ』『将来は何になるかー』とか声かけるようになってね。激励したりされたり。それがきっかけやろうね」。
ところが、それから2、3年で通学路が変わり、杉一さんの家の前を通る小学生が激減しました。
「ここに立っとる意義ば何か見つけんと、ち思たね(笑)。ある時、保育園の送迎の車が行き来しよることに気付いてね。手を振ってみると小さな子どもが窓を開けて手を振ってくれて。でもね、よーと見たら、かわいかお母さんもおろうが。今度はそっちにも手ば振り始めたたい」。
しかし、少子化の波か、保育園の送迎の車もだんだんと減っていったそうです。「それから徐々に全部の車や人にあいさつするごつなったたい。じゃなかと、おいちゃんがここに立っとる意味が無くなるけんね(笑)」。
あいさつが敬礼ポーズになったのは、この頃だったそう。「車いすの妻と一緒に手を振ると、『止まってくれ』のサインと勘違いされて」。 杉一スタイルの完成です。
1日に会う約2000台の車のうち、反応してくれるのは2~3台に1台といった感じ。「応じられようと応じられまいと、おいちゃんは一台一台に敬意を送りよる。心が通じとるち思うもん」と杉一さんは話します。あいさつは、お互いを理解する原点で、平和になるための根っこだと信じているからです。
「あいさつは“あなたに害は与えない”という距離でできる心の交流やろ。寿司屋の時はたくさんの人と会いよったけど、辞めたらそうはいかん。でも、良い塩梅の人との関わり方ば見つけたけんね」。

支えられる側になることが多い高齢者。杉一さんは、子どもたちの見守りや多くの人との心の交流に、自らの役割と居場所の一つを見出しました。
杉一さんは数年前、腰を痛めたことがありました。「椅子に腰かけてあいさつしよったら、何人もの人が『おいちゃん、どげんしたとね』『大丈夫ね』と言ってきてくれてね」。見守りながら見守られる。自然な形で心を通じ合せる関係が、山本町にあります。
(担当・フトシ)

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